【外国人参政権 欧米の実相】
「私の父は34年前、軍を掌握したサダム・フセイン(後にイラク大統領)の圧政から逃れるため、家族を連れて英国に亡命した。父は必死で働き英国籍を取得した。当選したら英国に少しでも恩返しをしたい」
[地図で見る]35都道府県議会が「外国人参政権」に反対 2月27、28の両日、英国南部ブライトンで開かれた最大野党・保守党の春期党大会。13年ぶりの政権奪取をうかがう総選挙(5月6日)を控えたこの大会で、登壇したナドヒム・ザハウィ氏は力強く演説した。イングランド中部の選挙区から出馬する。英国籍ではない。イラク出身のクルド人である。
氏は1997年、総選挙に初めて立候補したものの落選。地方議員を12年間務め政治経験を積み、次の機会を待った。
未曾有の金融危機で英国でも失業者が急増し、保守党は移民の規制を訴える。その一方で、パキスタン系移民2世の女性上院議員、サイーダ・ヴァルシ氏を影の内閣に登用したり、香港系の候補者を擁立したりと、多様性も打ち出す。43歳のデービッド・キャメロン党首になって、保守党が生まれ変わったことを強調する戦略である。
英国では、歴史的に「英国人」と「外国人」の間に明確な一線を引き、外国人参政権を否定してきた。しかし実際には、ザハウィ氏のように英国籍を取得していなくても、英連邦に加盟する旧植民地53カ国やアイルランドの国民で、英国在住であれば、地方参政権だけでなく国政参政権も与えられている。こうした人々は「外国人」とはみなされていない。
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2001年の国勢調査では、01年の時点でロンドンの人口は710万人だった。このうち英国生まれは520万人以上で、外国生まれは190万人。その後5年間で英国生まれは506万人に減少し、外国生まれは逆に229万人近くにまで増えた。
「もし英国に住んでいればという仮定の話だが、英連邦の20億人近い有権者が総選挙に投票できる。欧州連合(EU)市民にも国政参政権を広げた場合、有権者は25億人に近づく」
英国の外国人参政権の特殊性をこう表現してみせたのは、00年から2期8年間、ロンドン市長を務め、国家における異なる文化の共同体を対等に扱う多文化主義を実践してきたケン・リビングストン氏(労働党)だ。
産業革命を経て、七つの海を支配した大英帝国は世界に版図を広げ、英領土内で生まれた者には「英臣民資格」が与えられた。第一次大戦で女性労働者が進出し、1918年に21歳以上の男性と30歳以上の女性に普通選挙権が認められた際、植民地出身の英国在住者にも参政権が付与された。
『外国人参政権問題の国際比較』(河原祐馬、植村和秀両氏編)によると、当時、人の移動は植民地から英国への流入より、植民地への流出の方がはるかに多かった。このため植民地の住民に参政権を与えても問題にならず、むしろ大英帝国の政治的統合の象徴としてとらえられた。
第二次大戦後に大英帝国は解体し、入国・居住権は制限されたが、旧植民地の住民の参政権は「帝国の残滓(ざんし)」として残されたのだ。
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ピーター・ゴールドスミス前英法務長官(政府最高法律顧問)は2008年に、英連邦とアイルランド出身の英国在住者に付与されている国政参政権の取り消しを検討するよう政府に提言した。氏の主張は「国政参政権は国民の権利の中でも特筆すべきもので、英国籍保有者に限って認められるべきだ」というものであった。
これに対し、移民に寛容なリビングストン氏は「ロンドンがニューヨークを追い越す国際金融センターになったのは、門戸を開放したからだ。外国からの資本と人の流入が経済を活性化させる。英国で働いて税金を納めているのなら、参政権を認めるのが当然だ」と反論する。
労働党のデービッド・ミリバンド外相は3月23日、ロンドンの外国特派員協会で記者会見した際、「英連邦の市民で英国在住者には総選挙の選挙権が認められているので、ぜひ投票を」と笑顔で呼びかけた。ゴールドスミス氏の提言について質問してみたが、答えようとはしなかった。(ロンドン 木村正人)
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